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Just Charlie
    ジャスト・チャーリー/僕、女の子になるはずだった!

イギリス映画 (2017)

スカウトから声がかかるほどサッカーが抜群に巧かった15歳のチャーリーが突然やる気をなくし、学業の方もおろそかになり学校から呼び出しがかかる。それは、小さな子供の頃から姉イヴのようになりたいと思っていたチャーリーが、このままでは「男性」として生きざるを得なくなることに危機感を覚えたからだ。この映画は、トランスジェンダーの悩みを正面から見据え、「女性」こそ自分本来の姿だと思うチャーリーが 信念を貫こうとする時に遭遇する偏見や慟哭を丁寧に、そして、優しく見守ろうとする秀作だ。戸惑いながらもチャーリーの決断を全面的に支援する母スーザンと姉イヴの姿には観ていて心が温まる。チャーリーの女性サッカーチームへの編入を手助けするサッカーコーチのミックや、サッカー部の友達で、転身後も友達となるトミーのような心の広い人物もいれば、チャーリーのことを “he” としか呼ばない父ポールや、姉の級友ベサンや女子サッカー部の反チャーリー・グループのような連中、果ては、家族としての付合いまで拒否する祖母ナンのような偏狭な人物もいる。トランスジェンダーは、ゲイのような嗜好ではなく、性のミスマッチという、よりシリアスな問題なのだが、2017年のイギリスでも、その点があまり理解されていない。いろいろな映画評を読んでいると、ほとんどの場合、チャーリーを “he” ではなく “she” と表記している。それがトランスジェンダーの「女性」に対する正しい扱いだと思う。2011年のフランス映画『トムボーイ』は、「男の子の振りをすることが好き」な女の子の話だったが、新たな土地に引っ越して来てから男の子らしく振舞うだけで、女の子であることは隠している(ただの遊びなのか、レズなのか、トランスジェンダーなのかは分からない)。これに対し、チャーリーは、それまで男の子としてあまねく知れ渡っていた状況下で、女の子に変わる道を選ぶ。この映画は、小品ではあるものの、性同一性障害に正面から向かい合った記念碑的な作品と位置付けられる。

バーミンガム近郊に住む15歳の少年チャーリーは、将来を嘱望されるサッカーの名手。子供の頃にその夢を果たせなかった父親は、サッカー・エリートを養成するアカデミーからスカウトが来たことで有頂天になる。しかし、その頃、チャーリーは、大きな葛藤を抱えていた。心の中に存在する「チャーリー」という人格は、「男性の体をもったチャーリー」など求めていなかった。映画の台詞を借りれば、「僕は、女の子になるはずだった」。あるいは、「僕は、みんなが『僕だ』と思ってる『この体』に閉じ込められてる。だけど、僕はチャーリーだ。こんな姿なんかじゃない」。チャーリーは、サッカーの練習に出なくなり、父親だけでなく一番の親友のトミーまで心配させる。学業にも手がつかず、両親は呼び出しをくらう。しかし、チャーリーには、そんなことはどうでもよかった。今、自分を取り戻さないと、永久に「別人」にされてしまう! チャーリーは女装したところをサッカーのコーチと父に見つかる。見識の広いコーチは秘密にするが、サッカーのことしか頭にない父は激怒する。追い詰められたチャーリーが自傷行為に及んだ時、チャーリーを全面的に支えてくれたのは母だった。カウンセラーとも話し合い、薬で思春期の男性化を止めるとともに、理解のあるコーチのはからいで女子サッカーチームに参加する道が開かれる。しかし、チャーリーが「女子」の姿のまま登校すると言い出したことで事態は悪化する。チャーリーは笑い者にされ、父は口もきいてくれない。トミーとケンカしてケガをさせ、トミーの両親と父は罵り合う始末。そんな中、母は、チャーリーを救うため、父との別居を決断する。チャーリーの姉は、常にチャーリーの味方をし、そのため自分の親友すら失う。幸い、女子サッカーチームでは、ソフィーという新しい親友が生まれ、一旦は訣別したトミーも自ら和解を申し出て親友に復帰する。トミーの決断を知った父は、チャーリーが、どんな姿をしていようが、自分の大切な子供であることに気付く。父が和解のため、女子用のサッカーシューズを買った日、ソフィーと若者の集いに出ていたチャーリーは、男子生徒に絡まれ、女性でないことが分かってしまい、ゲイと誤解されて殴る蹴るの暴行に遭う…

ハリー・ギルビー(Harry Gilby)は、2015年の遅くに主役抜擢が決まったので、役作りは14歳(インタビューでそう言っている)、撮影時は15歳であろう。ごく普通のミドル・ティーンがトランスジェンダーの役をこなすのは大変だったと思うが、映画初出演にもかかわらず見事に演じきっている。インディペンデント系の小作品は、演技の質によって映画の出来不出来が大きく左右されるが、この映画の評ではいずれもハリーの演技が高く評価されている。次回作はアメリカ映画『Tolkien(トールキン)』。あの『指輪物語』の作者の伝記映画で、ハリーはトールキンの少年時代を演じる。因みに下の写真は12歳のハリー。ごく普通の少年だ。
   

 
あらすじ

映画の冒頭、嬉しそうにサッカーをするチャーリーの姿が、わざと露出オーバーにした映像で30秒ほど映される(1枚目の写真)〔オープニング・クレジットを兼ねる〕。彼はジュニア・サッカーチームの花形プレイヤーだ。ロッカールームで、チャーリーは鏡の前に立って髪を直している(2・3枚目の写真)。選手達は、みんなチャーリーに声をかけて帰っていく。クラブハウスの前ではチャーリーの父ポールと、ラスト・ツーに建物から出てきたチャーリーの親友トミーの父母が待っている。「チャーリーは何してる?」。「髪を直してる」。一方、父は、コーチからもらった名刺を見ている。トミーの父が、「さっそくプレミアリーグに電話しないとな」と言うので、チャーリーの才能を見込んだコーチが、ポールにスカウトの名刺を渡したことが分かる。そこにチャーリーが出てくる。トミーの父は、「コンパニからサバレタに、サバレタからシルバに、さらにアグエロに…」とふざける〔いずれも、マンチェスター・シティ(マンC)のスター選手〕。2つの家族はそこで別れる。とても親密だ。帰宅する車の中でも、父は浮かれてはしゃいでいる。チャーリーが静かなので、「嬉しくないみたいだな?」と声をかける。「嬉しいよ」。「ならいい」。家に帰った父は、母に「今日、何があったと思う?」と嬉しそうに言う。「勝ったの?」。「もちろん勝ったさ」。「彼はどこ?」。「これ〔名刺〕何だと思う?」。「彼はどこ?」。「さあ、部屋に行ったんだろ」。「ティーでも飲む?」。「なあ聞けよ。話しがあるんだ」。父がキッチンに入って行くと、妻がシャンパン・グラスを手に持っている〔お祝いのため〕。トミーの母がもう電話で吉報を知らせていたのだ。そこにチャーリーが入って来る。父母が、「チャーリーに!」と言ってグラスを上げるが、チャーリーは「明日までにしなくちゃいけない宿題がある」と言って出て行く。
  
  
  

チャーリーは、姉とその友達と一緒に貸衣装店に来ている。両親の友達の結婚式に出るための衣装を選ぶためだ。チャーリーは、ダークブルーグレーの背広だが、ネクタイが苦しいので「これ外せない?」と訊く。そのうちに、姉のイヴ他3人の女の子も着付けを終わってドレス姿で出てくる(1枚目の写真)。チャーリーは、こっそり抜け出すと女性用の試着室に上がって行く。棚には、美しいハイヒールが置いてある。チャーリーは思わず手に取って眺める(2枚目の写真、矢印は靴)。そして、あまりにきれいなので、イスに座ってハイヒールを履いてみる。それを嬉しそうに見ていると、いきなり、「何してるの?」と姉の声がする(3枚目の写真、矢印は鏡に映った姉)。チャーリーは、慌てて脱いで元に戻す。「別に」。「いつも、うろうろするのね。行くわよ、みんなと一緒にいないと」。チャーリーの「嗜好」が初めて分かるシーンだ。
  
  
  

チャーリーは父に連れられて、サッカー練習場のような場所に行く。多くの若い選手が練習をしているように見えるが、詳しいことは何も分からない。一緒に一人の男性がいる。これが名刺の相手なのだろう。この男性と父の会話も漠然としている。唯一のスカウトらしき言葉は、「ミック〔コーチ〕は、君をすごく褒めてたぞ、チャーリー」、くらい。この言葉に対し、チャーリーは、「フットボールが好きです。試合も、練習も」と返事する(1枚目の写真)。すぐに父が引き取る。「私もそうでした。大好きで」。チャーリーは、2人から離れると、練習風景をじっと見ている(2枚目の写真)。帰りの車の中。父は、自分が若い頃の話(膝の故障の面倒をチームが見てくれなかったこと)を話し続ける。その話がチャーリーの耳に入っていないことを示すため、音声が「遠くから聞こえる」ように処理してある。最後は、「おじいちゃんも誇りに思うぞ。これは第一歩だ。目標はプレミア・リーグ。お前ならやれる。才能は抜群だ。楽しみだな」と、チャーリーの話題に変わっている。それでも、チャーリーは何も言わない。父は初めて様子がおかしいことに気付き、「何を考えてる?」と訊く。「さあ…」。「チャーリー、お前は すごいチャンスを与えられたんだぞ」。「チャンスだって分かってる」(3枚目の写真)。「そうか、それなら与えられた才能は、活かさないとな。こんなチャンス、何人の子供がもらえると思う?」。「分かってる」。「じゃあ、考えることなど何もないだろ? 好きなゲームをやって、がっぽり稼げる」。「分かってる」〔毎回、乗り気のない返事〕。「下らない工場で働かなくていい。悪いトコは何一つない。『男』 になればいいんだ」〔比喩的名意味での「男」なのだが、チャーリーには肉体的な意味での「男」に聞こえたのかも〕。「うるさいな」。この意外な一言に父は戸惑う。
  
  
  

夜、練習コートの横で、チャーリーとトミーが話している。話題になったのは、チャーリーが行かされようとしているアカデミー〔恐らく、プレミアム・リーグ所属のサッカー専門学校のようなものだろう/イギリスのサッカー事情には疎いので間違っているかも〕。トミーは、「お前、トロいんじゃないか。行かないんだろ? もし俺だったら、すぐにサインしちまうぞ」と批判する。「そんな簡単な話じゃないだろ?」(1枚目の写真)。ここで、チャーリーが、父の望み通りにはしない積もりであることがはっきりする。次のシーンでは、姉が要らなくなった服などをゴミ袋に入れ、これから持って行くものを鞄に詰めている。それを、部屋の入口に来たチャーリーがじっと見ている。それに気付いた姉が、「何の用?」と訊く(2枚目の写真)。「ママが、出かける前に食べるか訊いて来いって」。「たぶんノーね。遅刻してる」。チャーリーは、大きなゴミ袋を2つ持つと、隣にある自分の部屋にそのまま持ち込む(3枚目の写真)。しばらくすると、姉のお迎えが来る。同年輩の男性(ガレス)と女性(ベサン)が乗っている。父とチャーリーで出迎えに行き、一足遅れて大量の荷物を持った姉が降りて来る。姉が車に乗ると、ベサンが「チャーリーって可愛いわね」と言う。
  
  
  

自分の部屋に行ったチャーリーは、ゴミ袋から花柄のキャミワンピースを取り出す。そして、自分の体に当ててみる(1枚目の写真)。次に取り出したのはブラジャー。横に置くと、両手で自分の胸を触る。「なぜ自分には乳房がないのか」 とでもいうように(2枚目の写真)。チャーリーはゴミ袋が母に見つからないよう家から持ち出し、近くの森に行って隠す。そして、上半身裸になると、蝶柄のブラウスを着て、顔に化粧し、髪をヘアバンドで丸く整える(3枚目の写真)。
  
  
  

チャーリーは、サッカーの練習に熱が入らず、足が痛いと言って早々に練習をやめる。一方、両親は学校に呼び出される。担任は、チャーリーが宿題をやって来ないと指摘する。「2度未提出で、3度目は先週でした」。父は「いつも部屋でやっています」と言う(1枚目の写真)、「チャーリーは前途有望な優秀な生徒です。クラスでも人気者です。でも、最近は黙りこくって、勉強にも身が入りません」。母は、「落第ですか?」と心配する。「まだ間に合います。元通りになればAも取れます。でも、今のままでは心配です」。家では、チャーリーは何もせず、ただ座っている(1枚目の写真)。両親が学校に呼び出されたのを気にかけている様子だ。そこに、両親が学校から帰ってくる。母は、そんな姿を見て、「どうしたの?」と訊く。「別に」。父:「宿題 やってないじゃないか」。「やってる」。母:「学校に行ってきたのよ。あなたには失望したわ」。チャーリーは肩をすくめる。父:「何のつもりだ?」。「別に」。母:「宿題は大切なのよ」。「分かってる」。「なら、なぜしないの?」。「やってるよ」。父:「気楽にやってる〔had it easy〕だけに見えるぞ」。「気楽? まさか!」。母:「これまで、苦労することもなく過してきたでしょ」。「知らないくせに」。父:「お母さんに、何て口の聞き方だ」。「どこがさ? 何を言おうが、何をしようが自由だろ!」。「誰に向かって言ってる〔Who do you think you are talking to〕?」。「あんたに言ってるんだ! 言うことといったら、フットボール、フットボールだけ!」(3枚目の写真)「サインしろ、サインしろ! くそったれのフットボールなんか、やるもんか! 学校なんか嫌いだ、人生も嫌いだ、みんなクソだ!!」。「座れ、チャーリー!」。チャーリーは、「知ったことか〔I don't give a fuck〕!」と捨て台詞を残して居間から出て行く。
  
  
  

場面は変わり、前の週に着付けをしていた結婚式が行われる。チャーリーも当然出席するが、すごくつまらなそうだ。そして、首を締め付けるネクタイが耐えられなくなる(1枚目の写真)。教会での式典が済んで全員が出て行くのを見ていたチャーリーはこっそりと抜け出すと、姉のゴミ袋を隠した森に直行する。そして、上半身裸になると花柄のキャミワンピースを着る。ところが、その後ろ姿を、ジョギング中のコーチに見られてしまう(2枚目の写真)。木の葉の影から撮られた解放感でホッとしたチャーリーの姿が初々しい(3枚目の写真)。教会に戻っていったチャーリーは父母から大目玉を食らう。「みんな、ずっと前に帰ったのよ〔Everyone left ages ago〕」。「気分が悪くなったんだ」。「姿を消す前に、なぜ、そう言わなかった?」。「どんな問題を抱えてるか知らんが、ちゃんと自分で解決しろ〔sort yourself out〕」。
  
  
  

その次に、近くのミニ公園のブランコで、チャーリーとトミーが話し合う2分を超える長いシーンがある(1枚目の写真)。2人は待ち合わせをしていて、チャーリーがトミーを待たせていたという設定。ケガをして休部していると思っていたトミーが、「まだ、ケガしてるのか?」と訊くと、「もう良くなった」と答える。「じゃあ、なぜ練習に来ない?」。「君にチャンスをやろうと思って」。「よく言うぜ。ミック〔コーチ〕は、金の卵を失くしたんだぞ」。「僕は金の卵じゃない」(2枚目の写真)。「金の卵だ。それでも 上を望まないんなら、それはお前の勝手だ。だが、お前はチームには必要なんだ」。「僕は、フットボールにうんざりしたんだ〔I've had it with〕」。「チャーリーがフットボールにうんざりしただと? バカ言え、お前にプレーをやめられるハズがない〔There's no way〕。まさか、他のチームに入る気じゃないだろうな?」。「そんなじゃない」。「ならいい。じゃなきゃ、脚を折ってやるとこだ」。結局、トミーは、明日の練習に来るよう強く誘い、チャーリーもOKする。トミーが、チャーリーのことをチームメイトとして如何に大事に思っているかがよく分かる。
  
  

翌日、練習が終わった後、コーチがチャーリーに話しかける。「大丈夫か?」。「はい、元気です」(1枚目の写真)。「フットボールをやりたくないのなら、やるな」(2枚目の写真)。「やります」。「プレーしたくないのなら、それでいい。休みたいのなら〔want a break〕、いつ戻ってきても歓迎する。フットボールより大切なものがあるだろ。(こんなこと言ったなんて)誰にも言うなよ」。これほどいいコーチはいないだろう。しかも、彼は、ジョギングの時、チャーリーが女性の服を着ているのを見ている。恐らく、彼は、その時点で、チャーリーは性同一性障害の悩みを抱えていることを見抜いたに違いない。
  
  

その夜、姉はお出かけ、両親も用事で出かける。父が、出かける直前、チャーリーに「ウェインに返事しなくちゃならん。考えとけ」と言うので、スカウトに対してまだノーの返事はしていないようだ。「分かったよ」。父が最後にかけた言葉は、「いい子にしてろ〔Stay out of trouble〕」。その後 何が起こったかを考えると、皮肉な言葉だ。チャーリーは、カーテンの隙間から2人が車に乗るのを確かめると、かねてから思っていたことを実行する。まずバスタブに湯を張り、バブルバスで入念に体を洗い、ボディローションを塗り、カミソリで脚をツルツルにする。女性用の下着をはき、ヘアバンドで髪を縛ると、アイメークをしてから、口紅を塗る。その時、いきなり「何してる?」と父の声がする。チャーリーは、ショックで何もできずに茫然と父を見るしかない(1枚目の写真)。父は、もう一度「何してる?」と訊く。「分からない」。「『分からない』って、どういうことだ?」。「説明できない」。「お前はもう子供じゃないんだ。そんなコトしちゃいかん。異常だ」。「違うよ。そんなんじゃない」。「分かった。取れ」。「パパ」。「取れ! 化粧を落とすんだ!」。「思ってるみたいな 異常じゃないんだ」。「異常だ! 俺は、そう確信する」。「パパ、お願い」。父は、「その気味悪い顔を、拭え!」とチャーリーにタオルを投げつける。そこに、怒鳴り声を聞いて母が入ってくる。父は、「取り去れ!」とわめきながらチャーリーにつかみかかる(2枚目の写真)。父が無茶無茶に顔をこするので、母が「ケガさせる気」と止める。「気を鎮めて!」。その間も、チャーリーはずっと泣いている。そして、「僕は異常じゃない。違うよ」と嗚咽をもらす。そして、決定的な言葉を放つ。「イヴ〔姉〕みたいになりたかった。僕は、女の子になるはずだった〔I should've been a girl〕」(3枚目の写真)「こんなことになるなんて思わなかった」。父が「たわけたこと言うな!!」と大声で怒鳴る。そして、母に、「こいつが何を思おうがどうでもいい。大人らしくしろ!」と主張する。母は、そんな父は無視して、「チャーリー、どうしたの?」と優しく訊く。「しっくりこないんだ。もう限界だ〔I feel stuck〕。何もかも間違ってる。鏡を見ても、自分じゃないんだ」。チャーリーの言っていることが全く理解できない父は、「下らんことをぐちゃぐちゃ言うな! 大人になれ! お前は若い男なんだ!!」と怒鳴ると部屋を出て行ってしまう。
  
  
  

しばらくして、チャーリーが父の前に現れる。化粧を落とし、普通の服を着ている。そして、「もうしないって約束する。ごめんなさい」と謝る。父は、詫びを受け入れ、「アカデミーの方は、進めていいんだな?」と尋ねる。「それはどうかな」。父は、「ゲイのことなら、何とか乗り越えよう」と勇気付けるように言う。「ゲイじゃない」(1枚目の写真)。翌日、試合が終わり、マイクロバスから選手たちが降りてくる。コーチが、「よくやった」「来週会おう」と声をかけているので、日曜に行われた試合に勝利したのであろう。他の選手は全員が降りたが、チャーリーだけは降りようとしないので、コーチがバスに乗り込む。「どうした?」。「まあまあです」。「ここじゃ不満なんだろ?」。「ええ」。「昔の君じゃない。戻ってきてからの君は楽しそうじゃない。いいか、前に、『フットボールより大事ものがある』って言ったろ。いいか、人生では色々なことが起きる。君には、取り組むべきことがある。最優先でだ。助けてくれる人もいるぞ」(2枚目の写真)。そして、意を決して「見たこと」を話す。「あのな、前、森の中でジョギングしてた時、隠れ家みたいな所の脇を通ったんだ」。チャーリーは、自分が女装したのをコーチに見られたことが分かる。「お願い、誰にも言わないで」(3枚目の写真)。「大丈夫、何も言わない、約束する」。コーチはさらに、「もし、私にできることがあったら…」と助力を申し出るが、いたたまれなくなったチャーリーは、「ここでは、もうプレーできません」と言って、バスを降りてしまう。
  
  
  

その日の夕食。一言も口をきかなかったチャーリーは、食事にほとんど手をつけないまま席を立つ。「どこに行くの?」。「気分が悪い」。「食べてみなさいよ」。「とっといて。気分が悪いんだ」。部屋に戻ったチャーリーは、鏡に映る「自分のものではない」顔を、悲しげに触ってみる(1枚目の写真)。その後、鏡を見ながら全身をまさぐる。あたかも、全身が自分のものではないように。考え込んだ末に、チャーリーはテーブルの上に置いてあったハサミを取り上げる(2枚目の写真)。そのあと、何が起きたのかは分からない。夜、病院の外で、父が悩んだ顔でタバコを吸っている。そこに母が近づいて行く。「今 包帯を巻いてる。後で、医者が話したいそうよ」(3枚目の写真)。「あいつ、いったい何を考えてる?」。「明白じゃないの」。「俺には分からん」〔この時点で、2人の認識は180度異なっている〕。母は、「私たち、チャーリーと話し合わないと。すごく不幸なんだわ」と言う。事態を理解していない父は、休暇を取って家族で旅行に出かければ元気になると話すが、母は「そんなことじゃ解決しない。もっと深刻なの。助けが要るわ」と指摘する。それでも父は、「必要なのは自信。それで、正しい方向に向かうだろ」と言うだけ。「どんな方向?」。「ありのままの事実〔things as they really are〕を受け入れることが必要だ」。「もし、できなければ?」。翌日、ジムでコーチが筋トレをしていると、父が寄ってきて、「ちょっと話してもいいか?」と訊く(4枚目の写真)〔2人は親友〕。「いいとも」。「チャーリーのことなんだ。あいつ、森の中で何をしたか話したんだ。あんたに見られたってことも。胸にしまっておいてくれたこと、感謝するよ」。「当然だろ〔It's a given〕」。「ああ、確かめておきたかったんだ。こいつは、とてもデリケートな問題だからな。あいつが、あんなやり方で 当て付けるとは信じられん」。この最後の言葉にコーチはムッとくる。そして、「彼は、君に当て付けてなどいない… 言わしてもらうが」と言って立ち去る。コーチには、父親の認識のなさが信じられなかったのだろう。
  
  
  
  

チャーリーがカウンセラーに行く日、母に呼ばれて部屋から出ようとするチャーリーを姉が呼び止めて抱きしめる(1枚目の写真)。「頑張って〔Good luck〕」。「後でね」。姉は、チャーリーの後姿を優しく見送る。ここから、カウンセラーとの話し合いのシーンが始まる。チャーリーの悩みがはっきりと分かる場面で、ハリー・ギルビーの迫真の演技が光る。「チャーリー、どんな気分かな?」。「分かりません。ドキドキしてます」。「よく分かるよ。でも、これは、すべて君を助けるためだってことを知っておいて欲しい。今日が、その第一歩だ」。「どのくらいかかります?」(2枚目の写真)。「状況によるね」。チャーリーは、「第二次性徴遮断薬〔puberty blockers/思春期に特徴的な性徴の発達を止める薬〕は使えるんでしょうか?」と質問する。「相談に値するね。遮断薬は、君に性自認〔どちらの性が相応しいかという認識〕を考える時間を与える良い手段だ」。「もう自認しています」。母が、「よく話し合ってきました」と言い添える。「チャーリーの幸せだけが望みです」。「ご主人はどう思われていますか?」。「苦しんでいます」。チャーリーは、「彼は 嫌がってます」と明言する。「嫌悪してます。僕のためなら何でもすると言いますし、愛してるとも。でも、嘘なんです」。「それは あんまりよ」。「なら、なぜ ありのままの僕を受け入れない?」。「あなたは親じゃないでしょ」。カウンセラーは、「両親にとって、理解するのは難しいものなんだよ」と説明する。「お父さんにとって、君はいつも『男の子』だった。でも、君はそうじゃないと言い出した。裏切られたように感じるんだ」。そして、さらに、「君は誰なんだい、チャーリー?」と尋ねる。「僕は… ここにいるけど… 誰にもホントの僕は見えない。みんな僕と話すけど、話してる相手は僕じゃない」。そして、胸を指して「この中にいる」と言う。「みんなは別の人と話してる。僕は、すごく小さかった頃、姉のイヴの真似をしてた。大きくなったら、彼女みたいになれると思ったから。でも、そんなことはあり得ないと分かった。そんなのアンフェアだ。そんなの嫌だ」(3枚目の写真)「僕は、みんなが『僕だ』と思ってる『この体』に閉じ込められてる。だけど、僕はチャーリーだ。別の姿の」。性同一性障害の人の悩みがストレートに現れた悲しくも素晴らしい会話なので、ほとんどそのまま台詞を紹介した。
  
  
  

両親が喫茶店で休んでいると、母に携帯がかかってくる。相手はコーチ。この時の母の電話応対は重要だ。チャーリーの状態を訊かれ、「彼女なら大丈夫」と答える。母がチャーリーを「彼」ではなく、「彼女」と呼んだ最初の場面だ。コーチは素晴らしい提案をする。母の表情も明るくなる。そして、「彼女に訊いてみるわ」と返事する。テーブルに戻った母は、「いい知らせか?」と訊かれ、「そうよ。チャーリーのこと。後で話すわ」と答える。「俺が屁理屈を言うと心配してるのか?」。「ミックが奔走して、チャーリーがプレーできるようにしてくれたの」。「今までプレーしてきたチームじゃないのか?」。「リッチフィールドの女子サッカーチームよ」(1枚目の写真)〔これで、映画の舞台となっている場所がやっと明らかになる。リッチフィールドはバーミンガムの北北東23キロにある町〕。父:「女子チーム?」。「ええ」。「は女子じゃないぞ」〔父にとっては、チャーリーは あくまで「彼」だ〕。夜になり、チャーリーが母に連れられて女子チームの練習場に入って行く。それに気付いたミック・コーチが迎えに来る。2人はコーチに笑顔を見せる(2枚目の写真)。私が一番気に入っているチャーリーの写真だ。髪を上げているだけで化粧もしていない素顔なのに、どう見ても女性だ。ハリー・ギルビーの役作りが巧いのか、メイキャップ・アーティストが巧いのか。ミックは、「アシスタントコーチのレイチェルを紹介する」という言い方をするので、この女子チームでもミックがコーチであることが分かる。だから、無理が通ったのであろう。チャーリーは、「レイチェルか… じゃあ、彼女にヘッドコーチが付いたんだ。去年のベスト・コーチが」と言う。これは、ある意味で、ミックへの賛辞でもある。元々サッカーが大好きなチャーリーは、活躍の場が与えられ、嬉々として練習に加わる。グラウンドの外に出たミックは、母に、「の具合はどう?」と、「彼」を使ってしまい、すぐに気付いて「済まない」と謝る。母は「彼女は、ずっと悩んでたけど、機会は逃さない〔not letting on〕」(3枚目の写真)「今度のことはありがとう」とお礼を言う。「これが一番いいと思ったんだ。タムワースから離れてるから、チャーリーにも都合がいいだろ」〔タムワースは、チャーリーの住んでいる町らしい。リッチフィールドの南東11キロにある/それだけ離れていれば、チャーリーの地元ではバレないという配慮〕。さらに、レイチェルについて、「彼女はチャーリーのことは何でも知ってる。知らない者なんかいないから」。「なぜ? 変な噂でも」。「そうじゃなくて、チャーリーは花形選手だから、どのコーチもよく知ってるんだ」。練習が終わり、チャーリーが満足そうに出てくる。「来週は控えだと思うけど、それってフェアだよね」。「じゃあ、プレーするのね?」。「するよ」。
  
  
  

翌朝、学校に送る車の中で、チャーリーは、昨夜のチームのことを、「攻撃のセットアップが上手いんだ」と褒めるが、父は無言。「今夜は遅番?」。「違う」。「終わったら、一緒にキックする?」。「行く所がある」。父は徹底的にチャーリーを無視している。車から降り、学校への入口で、姉の一番の親友ベサンが「チャーリー、大丈夫?」と声をかける。しかし、チャーリーは、見向きもせずに通り過ぎる(1枚目の写真)。後から追いついた姉が、ベサンに「パパがやたら意地悪するから」と弁解する。チャーリーは、廊下のロッカーで会ったトミーにも冷淡だ。トミーが「チャーリー」と2度呼んでも無視。「おい、ぼんくら」と言われて一瞬振り返るが、またロッカーを向く(2枚目の写真)。「どうなってる? 何だよ、その態度?」。「何て?」。「フットボール 来なくなったろ」。「やりたくないだけさ」。「なんで? どうした?」。「別に」。「お前、変わっちまった」。「そんなことない」。「ずっと俺を無視してる」。「忙しいんだ」。「今夜、来いよ」。「できない」。「来いったら」。「できないって言ったろ」。「お願いだから、チャーリー」。「嫌だ!」。このきっぱりとした否定で、大親友のトミーもカッときて、「消えちまえ」と吐き捨てるように言って去って行く。
  
  

週末の朝、チャーリーの最初の試合。送迎の母に加えて姉も一緒だ。コーチの指示で、チャーリーが女子とは別の着替え室に入って行くと、姉が母に「彼女 元気ね」と言う〔姉も「彼女」を使っている〕。ところがプレーが開始されても、チャーリーは控えのまま。姉が「なぜ、チャーリーはプレーしないの?」と訊いた時、母は、うっかり、「は」と言いかけて、「彼女は」と言い直す。「彼女は、前半は控えなの」。後半になり、コーチが、「まだ1-0で接戦だ。押しまくれ」と指示した後で、3人が控えと交代になり、「チャーリーには、ソフィーと連携して左から突いて欲しい」と指示。男子チームのスター選手だけあって、チャーリーは見事にゴールを決める(1枚目の写真)。姉と母は大喜び(2枚目の写真、一番右が姉、その隣が母)。試合が終わってから選手たちは控え室に戻るが、そこで口論が始まる。「、変だと思わない?」。「ううん、私たち勝ったじゃない」。「これで、リーグの最強チームね」。その時、黒人選手が「あんたらしいわね」と嫌味を言う。ソフィー:「何が言いたいの?」。反対派の選手:「いつも男の子を追っかけてる」。ソフィー:「チャーリーは男の子じゃないわ」。黒人:「チャーリーには、チンチンあるでしょ?」。「見たの?」。「ううん、あんたは いっぱい見てるでしょうけど」。ソフィーの味方:「私たち一つのチームなのよ」(3枚目の写真、左がソフィー)。黒人:「違う。 がいるうちは。あたしは、が戻って来ないと分かるまで、チームから出てくわ。フェアじゃない」。ソフィー:「フェアじゃない?」。黒人:「ミックは、をチームに入れるべきじゃなかった。なんか要らない。がクソッタレの性転換者であろうがなかろうがね」。こうして3人の偏見者が去って行く。わざわざ黒人と書いたのは 人種差別からではない。後で、トミーの母がチャーリーの父を口汚く罵る場面でも、それが黒人女性なので、映画ではそのことを強調したいのかと感じ、敢えて明記した次第。
  
  
  

唯一のサイド・ストーリー。チャーリーの家に祖母から1通の手紙が届き、大騒ぎになる。チャーリーの母の母が、娘の家族とは二度と会いたくないと言ってきたので。理由はもちろんチャーリー。常にチャーリーの側に立つ母は、「ムカつくわね」と怒るが、反チャーリーの父は、「母親なんだぞ」と諌める。母は、「如何にも あの人らしいわ」と客観的に言うが、父は、「彼女は、感情を変えられないんだ〔She can't help the way she feels〕!!」とムキになって怒鳴る。母は、「あなたのように、でしょ!!」と怒鳴り返す。まさに、代理戦争だ。この言葉で、父は部屋を出て行く。祖母を失った姉はずっと泣いている。責任を感じたチャーリーは手紙を読み、考える(1枚目の写真)。そして、祖母の家を一人で訪ねる。祖母よりは心の広い祖父は、チャーリーを家に入れる。祖母の部屋に行くと、夫と勘違いした祖母は、「誰だったの、フランク?」と訊く。しかし、振り向いて、チャーリーだと分かると、「今は、忙しいの」と追い出そうとする。チャーリーは、こう訴える。「すぐ出て行きます。おばあちゃんの気持ち、よく分かります。異様に見える事もです。でも、ワザとじゃありません。ずっと、男の子だと思われてたけど… でも、僕は、(男の子でなく)チャーリーなんです。このチャーリーは、別のチャーリーとよく似ていて」(2枚目の写真)「フットボールが好きですし、家族も好きだし、お祖母ちゃんも好きです。でも、もう会いたくないなら、それで結構です。でも、ママやパパやイヴのせいじゃないので、会わないなんて言わないで下さい」。そして、返事がないので、「さよなら、お祖母ちゃん」と言って立ち去る。祖母は、孫の心の叫びをどう受け止めたのであろう?〔ラストシーンでも姿を見せないので、頑ななまま心を閉ざし続けたのかもしれない〕
  
  

夕食のシーン。父はいない。偏狭な心の持ち主なので、一緒に食べるのが耐えられなくなったのであろう。ここで、チャーリーは重大な決意を明らかにする(1枚目の写真)。「ママ、家の外でも、ボクらしい服を着る時が来たと思うんだ」〔「ボク」という表現は、女性でも使うので、敢えて変えないことにする〕。「いいわ」。「この服をずっと着てたいんだ… 学校でも」。さすがに、母も、すぐには「いいわ」とは言えない。「学校で?」と訊き返す。「そう」。「いいわ」。食堂の隅では、父がいつの間にか入って来ていたが、その言葉を聞いて黙って立ち去る〔車に乗って、どこかに出て行く〕。かなりショックだったのだろう。家庭内の厭わしい秘密が、一気に知れ渡るからだ。チャーリーと母は、事前に学校を訪れる。対応したのは校長と担任。校長:「大変に勇気のいる決断だね、チャーリー」。「ええ」。「予想される事態を理解しているのかね?」。「ええ、ママとよく話し合いました」。担任は、「でも、どんな反撥があるか気付いてるの? あなたを知ってる人たちには大きなショックなのよ。先生方を含めてね」(2枚目の写真)。ここで、母が強く牽制する。「それは、納得できませんね。生徒なら分かりますが、教師は大人ですよ」。校長は、「時間を置いた方がいいのでは?」と言い出す。チャーリーは、「今まで、何をしてきたと思ってるんです?」と怒りをぶつける(3枚目の写真)。母も、「これまで、ずっと連絡を差し上げてきたじゃありませんか」と責任回避を非難し、「この学校は、あらゆる人種、信条、能力障害を受け入れると謳(うた)ってるでしょ」と指摘する。そう言われると、校長としては反論はできない。「チャーリーと最も接触の多い生徒から準備をさせましょう」と約束する〔大して何もしなかったようだが…〕
  
  
  

「女性」としての初登校の日。チャーリーは、送って来た母と 車の中で抱き合う〔母が、チャーリーを全力で支えていることがよく分かる〕。車から降りたチャーリーは、しばらく佇んで勇気を蓄え、おもむろに学校に向かって歩き出す(1枚目の写真、矢印は目立ちにくいスカート)。スカートにストッキングだが、ヘアバンドも黒、セーターとスカートも濃紺で、できるだけ目立たないよう配慮している。この日、チャーリーが実際にどのような目に遭ったのかは ほとんど分からない。チャーリーを見たトミーの表情の変化や、女生徒の笑い声が少し聞こえるだけで、後は、チャーリーが壁に悲しそうにもたれかかるシーンがあるだけ(2枚目の写真)。学校が終り、バス停はベサンに完全に無視される(3枚目の写真)。帰宅したチャーリーの泣き顔で、初日、如何に辛かったかがよく分かる(4枚目の写真)。陰惨な場面を見せられるよりも、肩透かしされた感も残るが、上品で効果的な演出だ。
  
  
  
  

翌日の姉とベサンのやり取りは、チャーリーの変化に対する1つの典型的な反応でもあり、姉イヴの見せ場でもある。放課後、姉がベサンのいる部室に入って行く。ベサン:「どう言っていいか分かんなかたったから、避けてた」。「分かる」。「大変だったわよね。私も、すごく残念。可哀想なあなたのママとパパ、大丈夫なの?」。「あんまり。パパには めちゃキツかった」。「聞いただけじゃ ピンとこなかったけど、のスカートや何やかやを見たら…」。「彼女よ」。「ショックだった。みんなもそうよ。、とってもキュートな子だったから。、すごく勇気があると思うけど…」。「彼女よ、ベサン。チャーリーは、今、彼女なの。あなたや私みたいに」。「、ホントにそうなの? 私、正直に言ってる。みんなもそう感じてる」。「彼女、本気なの」。「の思い込みじゃないの〔It's all is in his mind〕?」。「チャーリーは、専門家から助言 受けてる」。「でも、全員 同じ意見じゃないでしょ? もし、が気を変えたら? ただの心の病だったら?」。「何も分かってないのね!」。「私には、自分の意見を持つ権利がある」。「彼」をくり返し、ネチネチと嫌がらせを言い続けるベサンに、姉の我慢も限度に達する。「そんな意見、尻に突っ込むがいい〔shove your opinion up your arse/「くそ食らえ」の意味だが、敢えて直訳した〕、この傲慢なクソ女!」(1枚目の写真)。2人の友情は完全に決裂する。次の短いシーンは、女子サッカーチーム。チャーリーの活躍で試合に勝ったらしく、チャーリーがソフィーに背負われている。とても爽やかな映像だ(2枚目の写真、写真では分からないが、本当に背負われている。重くないのだろうか?)。
  
  

鏡の前で、姉がチャーリーの化粧を手伝っている。そして、より「女の子らしく」見えるように、「これ素敵よ」と言ってカツラを見せる。そして、うまく一体化するようにセットする(1枚目の写真)。2人の姉妹は、暖かい服装をして、近くのショッピングモールに出かける。2人は女性らしく、化粧品の店やアクセサリーの店を覘く(2枚目の写真)。
  
  

2人は近くの公園に行く。姉は、自分に妹ができたことを心から喜んでいる。ベンチに座ると、「いいもの買ってあげたわ」と言ってレジ袋の中を探る。「なに?」。「気に入るといいけど」。取り出したものは小さなバラのヘッドアクセサリー。つける時痛かったのか、「痛みなくして得るものなしよ〔no pain no gain〕。美とは辛いものなの」と慰めるが、チャーリーの顔は幸せに輝いている(1枚目の写真)。この映画で一番有名なシーンだ。「すごく似合うわよ」。「ありがとう」。2人は買ってきたお菓子を食べる。「公園 寂しくない?」。「ちょっと。楽しかったから」。「なぜ行かないの?」。「誰にも会わなければ、今のボクでいられる」。その時、トミーがこちらの方に歩いて来る。そして、2人の前を、「変態〔Freak〕」と言って通り過ぎる。それを聞いた姉は、「トミー」と呼び止める。「何だよ?」。「今、何て言った?」。「『変態』って言った」。「あんた、どっかおかしいんじゃない?」。「俺は違うね」。ここでチャーリーが「放っとこうよ」と言うが、年下の黒人に侮辱されたと思った姉は、聞く耳を持たない。「こいつに、あんなこと言わせておけない〔I won't have it〕」。「どうすんだ〔What are you gonna do〕? あんたの弟は、頭のおかしい性転換者じゃないか」。「お黙り、トミー!」。チャーリーが「行こうよ、バカらしい」と姉をなだめる。トミーは、チャーリーに向かって「何とか言えよ、このオカマ」と罵り、姉は「失せやがれ、このクソチビ!」と怒鳴る。その言葉に怒ったトミーが姉を突き飛ばし、チャーリーは「いい加減にしろ〔Back off〕!」とトミーの顔に「男」のパンチを食らわす。強力なパンチにトミーは動けない〔鼻の骨が折れた〕
  
  

翌日、練習に訪れたチャーリーに対し、コーチが「悪いが、苦情があった。今日チャーリーはプレーできない」と伝える(1枚目の写真)。その理由は、父が行きつけの食堂に行った時、はっきりする。食堂の片隅では、トミーの一家が食事をとっていた。そこに、父が入って来てカウンターでビールを注文する。すると、トミーの父が席を立った。トミー自身は、「パパ、やめとけよ」と言っている。トミーの父はカウンターまで来ると、「かみさんが来させたんだ、お前さんに文句を言えってな」と前置きする。「で、何が言いたい?」。「俺だったら、気にしないんだが…」。「いや、あんたも気にしてる。そうだろ?」。「息子の鼻の骨が折れたからな」。「そっちが始めたんだ」。それを聞いて、トミーの母が席を立つ。「だから来たんじゃない」。「じゃあ、何しに来たんだ?」。チャーリーのことでイライラしている父は、最初からケンカ腰だ。そこに、トミーの母が顔を出す。「恥さらし〔disgrace〕って言うためよ。あんな風に見せびら〔parade〕かして」。「見せびらかすだと?!」。「どこであんな癖を?」。「何が言いたい?」。「フットボールは二度とさせない」。「そうか?」。「そうよ。異常〔odd〕だから。あんなことして許されるハズがない〔he can't get away with what he's done〕」(2枚目の写真)。「異常だと?」。「そうよ」。「なら、奴は何をした? 奴が始めたんだぞ! 奴が蹴飛ばして、イヴを地面に押し倒した」。「あんたの息子とやらが、そう言ったの? が、あそこで見せびらかしてなきゃ、何も起きなかったんだよ!!」〔完全な言いがかりで、責任回避〕。「黙れ、クソったれ!!」。「妻に、そんな口をきくな!!」。「じゃあ、お前こそ黙れ!!」。ここで、父は食堂から出て行くように求められる。そのあとも、トミーの母はわめき続ける。「リーグに電話して、二度と試合に出られないようにしてやる! この恥さらし!!」。トミーの母のキチガイ的とも言える口撃は、邪険で不尽で偏見に満ちていて不愉快極まる。これが、これが本当に21世紀かと思ってしまう。それにしても、父もはしたない。トミーの母といい勝負だ。
  
  

週末になってチャーリーが寝ていると、母が「起きなさい。試合があるわよ」と声をかける。「何言ってるの?」。「ルールのどこにも、出場を禁止する規定はなかったの」。笑顔になるチャーリー(1枚目の写真)。チャーリーが試合で活躍する短いシーンが見られる(2枚目の写真)。
  
  

試合が終わった後、トミーから、会いたいというメールが入る。その日、チャーリーは、ソフィーともう1人の選手の3人でどこかに出かけるので〔チームメートと仲良くなっている〕、トミーと会ったのは翌日だろう。場所は、映画の初めにブランコで話し合っていた小公園の「木の家」の前。チャーリーが、骨折した鼻のことを「どう?」と訊く。トミーは頷いて、「イヴは大丈夫か?」と訊き返す。「元気」。「良かった。姉さん押して ごめんな」。「鼻はどう?」。「もう平気さ」。ここで会話が途絶える。そして、本音が始まる。トミー:「それ、何ためにしてるんだ?」。「何かのためじゃない」。「人が何かをする時には、理由があるんだ。お前、ゲイなのか?」。「そんなんじゃない」。「だけど変だぞ」。その言葉で、チャーリーは帰ろうと立ち上がる。「違う、お前のことじゃない。『変』なのは状況だ」。それを聞いたチャーリーはもう一度座る。「確かに変だよな」。「俺、気に入らないぞ。お前、何も言わなかったろ」。「見りゃ分かる」(1枚目の写真)。「話すこともできたのに、黙ってた。練習をサボるようになり、フイと来なくなった。そしたら、ドレス着て学校に来た」。「どうすりゃ良かった? みんな なりたい人間になっていいんだ」。「俺には無理だ。俺はロナウドになりたいからな」(2枚目の写真)〔レアル・マドリードのロナウド〕。さらに、「悪いが、理解できない。ネットなんかも調べたんだぞ。でも、分かんなかった。だけど、お前とはダチのままでいたい」。「ボクもだ。だけど、もう行かなくちゃ。ママとパパがカリカリしてる」。トミーは立ち上がる。「じゃあダチだぞ」。「ああ、友達だ」。2人は抱き合う。「すげぇ。お前ってデカい女の子だな」。「そうさ、バカだな」。2人は友達として別れる。ラストシーンでもトミーは友人のままなので、恐らく生涯通じての心の友になるのだろう。戸惑い、理解できないながらも、友達であり続けたいとするトミーの存在は、映画を心地よく引き締めている。
  
  

その頃、家には、姉のボーイフレンドのガレースが訪れている。そこに、チャーリーが帰ってくる。チャーリーがニコニコしているので、母が「いいことでもあったの?」と声をかける。チャーリーは、「パパ、大丈夫?」と訊く。しかし、父は何も言わずに部屋を出て行く。それを見たチャーリーの顔からは笑みが消える(1枚目の写真)。姉は、「休暇でどこ行くか見たくない?」と声をかけ、ガレースも「やあ、チャーリー、おしゃれだな」と、それに合わせる。チャーリーは、「パパと話してくる」と言うと、居間に入って行く。父は難しい顔をしてソファに座っている。TVはついているが、うつむいて何も見ていない。チャーリーが、「何 見てるの?」と訊くが、返事は「何も」だけ。チャーリーは父の隣に座り、「FIFAのゲーム〔父が大好きだったTVゲーム〕やる?」と訊くと、父は、「幾つか仕事がある」と言って居間を出て行く(2枚目の写真)。チャーリーとは顔も合わせたくないという態度だ。これには、廊下で見ていた母も腹を据えかねた。父が逃げ込んだ小屋に行き、「幾つか仕事ですって?」と訊く。「チャーリーが話したがってたのに、何もせず ここに閉じ籠もってるだけじゃない。こんなのバカげてる〔bollocks〕。もう堪えられない〔I can't do this anymore〕。「君はうまくやってるもんな。俺にはできん。やりたくもない」。「なら、出てったら?」。「何だと?」。「もし、家族でいたくないなら、自分の子供を愛したくないなら、ここにいる意味がない〔there is no point〕」。「俺が始めたんじゃない」。「チャーリーが始めたと思ってるのね?」。「そうだ! 奴が始めた。奴のせいなのに、なんで他のみんなが辛い思いをしなきゃならん」。「何て自己チューなの」。「チャーリーは違うんか? 君も違うんか? イヴも違って、俺だけ(自己チューなの)か? 俺が、すべてクソ下らんことだと思ってるからか? 言ってみろよ。チャーリーの暴露以後、生活はバラ色〔a bed of roses〕になったか?」。「厳しかったわ」。「厳しいんじゃない、あり得ないんだ」。「チャーリーには、勝ち馬の人生があった。君は、それを投げ捨てるのを助けた」。「フットボールだけが人生じゃない」。しかし、この頭の固い人間には何を言っても通じない。この長く辛い会話の最後は、「チャーリーは茨(いばら)の道を選び、君はを助けてる」。「彼女よ」。「違う、チャーリーは俺の『息子』で、イヴは『娘』だ」(3枚目の写真)。16歳でサッカーをあきらめ、工場で働き出して以来、典型的な労働者階級の道を歩いてきた父親にとって、トランスジェンダーなどという概念は異世界にしか存在しない「唾棄すべきもの」だったに違いない。炭鉱で生まれ育ったビリー・エリオットの父は、息子のチャレンジがバレエだからまだ許せた。それが性転換となると、如何にハードルが高いかが痛いほど分かる。
  
  
  

その後、父は簡単な荷物を持って家を出て行く。母の、「なら、出てったら?」という言葉を受けての別居だ。その次に4つの短いシーンが挟まれる。チャーリーとトミーがミニ・サッカーゲームで楽しく遊んでいる場面以外は、母、父、姉がそれぞれ悩んでいる。そして、夜の遊園地のシーンへと移行する。遊園地にやって来たのは、チャーリーとソフィーとトミーの3人組。初めての組み合わせだ。3人は、いろいろなアトラクションに乗って楽しむ。終わった後、乗り物で気分が悪くなったトミーが、「ホントに楽しかったか?」とチャーリーに聞く。「サイコーだった」。「そうか?」。ソフィーが「あんたにはキツすぎたみたいね、トミー」と言うと、トミーは2人の女の子の間に割り込んで、ソフィーに「そこが、俺の魅力なんだ。そのうち、俺にイカれるかもな〔You'll crack one day〕」と言う(1枚目の写真)。「夢の中ででしょ〔In your dreams〕」。なかなか上手い断り方だ。トミーは「俺、行かないと、チャーリー。じゃあ またな、デカい女の子」と言ってチャーリーを抱きしめる。チャーリー:「バカだな」。トミーは、次に「ソフィーは?」と抱き合うのを期待する。ソフィー:「ありえない〔It's never gonna happen〕」。「いつかきっと」。そう言ってトミーは帰って行く。「アホな子ね」。「でも、気に入った?」。「まさか、子供じゃない」。チャーリーとソフィーは、サッカーと同じですごく息が合っている。如何にも女友達といった感じ。場面は一転して、空になったビールのグラスを前に、いつも通り暗い顔の父。そこに、トミーの父がやって来て、新しいビールのグラスを置く〔おごり〕。トミーの父は、照れくさそうな笑顔を浮かべながら、「あのな… おかしな話なんだが… トミーとチャーリーがまた友達になったって知ってるか?」と尋ねる(2枚目の写真)。父は思わず顔を上げる。「いいや」。「クレアがブチ切れてな〔went fucking mental〕。だが、トミーはサイコーに幸せそうだ。俺も戸惑ってる」。「スー〔スーザン〕に追い出されたのは知ってるだろ?」。「ああ、聞いたよ」。「惨めなんだ」。「本当に残念だな」。「トミーとチャーリーがまた友達になったんだな?」。父はそう言うと、もらったビールのグラスを持ち上げ、2人で乾杯する。「次は俺の番だ〔I'll get the next one〕」。これは、転機となる重要な言葉だ。
  
  

父は、ミック・コーチの経営するスポーツ用品店にやって来ると、サッカー・シューズの並んでいるコーナーに行く。そして、ミックに、チャーリーに、「サプライズ」としてシューズ贈るつもりだと話す。女性用のシューズのことが分からない父に、ミックはグレイとピンクのシューズを勧める(1枚目の写真、矢印はピンクのラバーソール)。このあと、2つの場面がパラレルで進行するのが、ここでは、順序は逆になるが、シューズについての次の展開を先に紹介しておこう。父が、久し振りに家に戻って、母に向かい合っている。「鞄の中は何?」。「このために俺は来たんだ。チャーリーへのサプライズだ」。「見ていい?」。リボンを付けた女性用のシューズを見た母は、思わず笑い声を上げる。「お笑い草だな」。「そんなことないわ」。「彼女に会いたい」(2枚目の写真)〔父が初めてチャーリーを「彼女」と呼んだ〕。さらに、「みんなに会いたい。君がいないと俺はゼロだ。俺にはまだ理解できんが、それでも彼女を愛してる。彼女がああなりたいなら、俺はそれで構わない。彼女が無事で幸福ならそれでいい」。「私たちにできることは多くないわ〔We can only do what we can do〕。ママとパパであればいいの」。「君は素晴らしいよ」。2人はキスを交わす。すごく感動的な場面だ。台詞も磨かれている。
  
  

同じ頃、女子サッカーチームの施設の外で、若い男女が集(つど)っている。ソフィーが待っているところに、チャーリーが、姉とボーイフレンドのガレースと一緒にやって来る。ソフィー:「遅かったわね〔You took your time〕」。姉が、「誰かさんが用意できるの、待ってたの」と弁解し〔冗談で、チャーリーのせいにしている〕、ガレースに「君ほどじゃないよ」と実態をバラされる〔いいコンビ〕。そのあと姉たちは、2人でどこかに行き、チャーリーとソフィーだけになる。ソフィーが一団の男子の中の1人を見て、「彼、バッチシね〔really fit〕」と言い出す。「どの子?」。「のっぽよ」。「ボーイフレンド、いるじゃない〔You've got a boyfriend〕」。「『いた』のよ。ソフィーは、新しいボーイフレンド探しに熱心だ。「わあ、こっちを見た」。「もうサイアク〔You're a nightmare〕」。その時、ガレースが姿を見せる。「ボスから 食べ物の調達を頼まれたんだが、君、何か欲しいか」とチャーリーに訊く〔ボスとは姉のこと→もう尻に敷かれている?〕。「要らない。ありがとう」。ガレースはまたどこかに行く。ソフィー:「彼、優しいのね」(1枚目の写真)。ソフィーを見ていたのっぽと残り2人が寄ってくる。「やめた方がいいよ」。「大丈夫」。2対3で紹介し合う。ソフィーとのっぽは2人で少し離れ、チャーリーは2人と残される。「女の子」として同世代の男性と話すことに慣れていないチャーリーは、ソフィーが戻ってくるまでの時間稼ぎに、「君たちどこから来たの?」「前に、ここに来たことは?」などと訊くが、グレッグと呼ばれる方のチンケな男から酒を勧められたり(2枚目の写真)、サッカーチームのことを訊かれたりしている間に、距離を詰められる。そして、電話番号を訊かれ、「今、携帯持ってないし、暗記してない」と答えたところで、いきなりキスされ、同時に体を触られる。そして、「男」であるこが知られてしまう。グレッグは、「この、クソ、オカマ野郎〔You dirty fucking queer〕!」と怒鳴ってチャーリーに飛びかかる(3枚目の写真)。そして、地面に倒れたところを足で蹴り始める。騒ぎを聞きつけたもう1人も、足蹴りに加わる(4枚目の写真)。ソフィーの相手をしていたのっぽも加わり3人で暴行を続ける。遅れてやってきたチャーリーの父が3人を追い払ったが、倒れたままのチャーリーがどの程度ひどいケガを負ったのかは明らかにされない。
  
  
  
  

最後のシーンは。髭を剃った父が墓地の脇のベンチに座っているところから始まる。その前では少年2人がサッカーボールを蹴って遊んでいる。しばらくそれを見ていた父は顔を伏せる(1枚目の写真)。これだけ見ると、あの時、チャーリーは暴行で殺され、その埋葬された墓の前で、父が過去を悔やんで想いにふけっているのかと勘違いしてしまう。罪な作り方だ。しばらくすると、そこに母がやってきて、父の襟の脇に花をつける。そこは教会の墓地だった。場面は教会の中に移り、姉と父が腕を組んで中央の通路を歩いて前に進み出る。「花嫁」と「花嫁の父」だ。そして、その後ろに、付き添いとしてチャーリーがいる(2枚目の写真、矢印)。通路の先で待っている花婿は、あのガレース。参列者の中には、トミーとその父、ソフィー、コーチがいる。トミーとソフィーはチャーリーとしか関係がないので、2人がまだ友達であることが分かる。そして、ラストショットは、父と母に挟まれて最前列に座ったチャーリーの艶やかな姿(3枚目の写真)。恐らく、既に性別適合手術を受け、心だけでなく、体も女性となっているのであろう。2度と悲惨な暴行に遭わないためにも。
  
  
  

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